ビジネスの生命線となったネットワーク。突然の障害発生は企業活動を停止させるだけでなく、顧客からの信頼も大きく損なわれます。本記事では、企業のIT担当者が知っておくべきネットワーク障害の原因と対策、そして先進的な予防手法までを解説します。障害発生時の混乱を最小限に抑え、ビジネス継続性を確保するための知識を身につけましょう。
1.ネットワーク障害が企業にもたらす深刻な影響
ネットワーク障害とは、コンピュータネットワークの接続や通信に発生する問題のことを指します。事業継続の基盤ともなっているネットワークに障害が発生した場合、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。単なる一時的な不便さだけでなく、多角的かつ長期的な影響を理解することが、適切な対策を講じる第一歩となります。
1-1. 事業継続の危機
ネットワーク障害によるメールやクラウドサービスへのアクセス不能は、業務プロセス全体を麻痺させる可能性があります。特にリモートワークが普及した現在では、社内ネットワークの障害により、従業員が基幹システムやファイル共有サービスにアクセスできなくなれば、業務停止は避けられません。
また、製造業では生産ラインの停止、小売業ではPOSシステムの停止、金融サービスではオンライントランザクションの中断など、業種に関わらず重大な事業リスクとなります。わずか数時間のダウンタイムでも、企業の売上や生産性に大きな損失をもたらすと言われています。
1-2. 顧客からの信頼低下
オンラインサービスの中断は顧客体験に直接影響します。たとえば、ECサイトがダウンすれば売上機会を失うだけでなく、顧客は競合他社へ流れる可能性が高まります。また、金融機関のオンラインバンキングサービスが停止すれば、顧客は資産へのアクセスができず、大きな不安を抱えることになります。
一度失った信頼の回復には、長い時間と多大なコストがかかります。SNSなどを通じて、サービス障害の情報は瞬時に拡散され、ブランドイメージの低下につながることもあります。
1-3. 経済的損失
ネットワーク障害による経済的損失は、直接的な売上損失だけに限りません。復旧作業にかかる人件費、専門家への相談費用、ブランドイメージ回復のためのマーケティングコスト、場合によっては法的責任や契約違反による賠償金など、目に見えない損失も含めると、その総額は予想を超えることがあります。
企業規模や業種にもよりますが、ネットワーク障害による平均的な損失額は、1時間あたり数十万円から数千万円に達するとされています。特にeコマースや金融サービスなど、オンラインビジネスへの依存度が高い業種では、その影響はさらに深刻です。
2.ネットワーク障害を引き起こす主な原因
ネットワーク障害の効果的な対策を講じるためには、まず原因を正しく理解する必要があります。障害の原因はひとつではなく、複数の要素が複雑に絡み合っていることも多いです。ネットワーク障害の主な原因は、ハードウェア関連の故障、設定ミスとヒューマンエラー、ネットワーク帯域の不足と輻輳（ふくそう）、そして外部要因（サイバー攻撃、自然災害など）に分類できます。これらの原因と対策について、詳しく見ていきましょう。
2-1. ハードウェア関連の故障
ネットワーク機器の物理的な故障は、最も一般的な障害原因のひとつです。ルーター、スイッチ、ファイアウォールなどの主要ネットワーク機器は、24時間365日稼働しているため、経年劣化や過負荷によって故障するリスクがあります。
また、ネットワークケーブルの断線や接続不良、コネクタの緩みなども頻繁に発生します。特に古いケーブルや、人が頻繁に行き来する場所に設置されたケーブルは、物理的な損傷を受けやすく注意が必要です。
さらに、サーバールームやデータセンターの空調設備の故障による温度上昇は、ネットワーク機器の過熱を引き起こし、障害につながることがあります。適切な冷却環境の維持は、ハードウェア寿命を延ばす上で重要です。
2-2. 設定ミスとヒューマンエラー
ネットワーク設定の変更時に発生するミスは、意外にも多くのネットワーク障害の原因となっています。ファイアウォールルールの誤設定、ルーティングテーブルの誤り、IPアドレスの重複など、些細なミスが大きな障害を引き起こすことがあります。
特に複雑なネットワーク環境では、変更の影響範囲を正確に予測することが難しく、思わぬ副作用が生じることもあります。このため、変更管理プロセスの確立と厳守が重要です。事前のテスト環境での検証や、変更後の確認手順の明確化など、プロセスの整備が求められます。
2-3. ネットワーク帯域の不足と輻輳
クラウドサービスの普及やリモートワークの増加に伴い、企業のネットワークトラフィックは年々増加傾向にあります。ビデオ会議、大容量ファイルの送受信、クラウドバックアップなど、帯域を多く消費するアプリケーションの利用増加が、ネットワークの輻輳を引き起こしています。
輻輳（ふくそう）が発生すると、パケットロスや遅延が生じ、アプリケーションの応答性が低下します。特に、リアルタイム通信を必要とするビデオ会議やVoIPなどのサービスは、わずかな遅延でも品質に大きな影響が出ます。
こうした問題は、特定の時間帯（営業開始時間やランチタイム後など）に集中して発生することが多く、ピーク時の帯域需要を考慮したネットワーク設計が必要です。
2-4. 外部要因（サイバー攻撃、自然災害など）
企業ネットワークは外部からの脅威にも常にさらされています。DDoS攻撃やランサムウェアなどのサイバー攻撃は、意図的にネットワーク障害を引き起こし、業務を妨害することを目的としています。こうした攻撃は年々高度化、大規模化しており、対策も複雑になっています。
また、地震、洪水、火災などの自然災害も、物理的なインフラに大きなダメージを与え、長期間のネットワーク障害を引き起こす可能性があります。電力供給の不安定さや停電も、ネットワーク機器の正常な動作を妨げる要因となります。
グローバルに展開する企業では、国際的な海底ケーブルの障害や、政治的な理由によるインターネット遮断なども、リスク要因として考慮する必要があります。
3.ネットワーク障害発生時の対応プロセス
ネットワーク障害は発生を完全に防ぐことは難しいため、発生時の対応準備も同様に重要です。迅速かつ効果的な対応により、ダウンタイムを最小限に抑え、事業への影響を軽減することができます。ここでは、障害発生時の段階的なプロセスを解説します。
3-1. 障害検知と初期評価
障害対応の第一歩は、問題を正確に検知し、その影響範囲を迅速に評価することです。多くの企業では、ネットワーク監視ツールを導入し、異常を自動検知する仕組みを構築していますが、ユーザーからの報告が最初の手がかりとなることもあります。初期評価では、影響を受けているユーザーやサービスの範囲、障害の発生時刻と継続時間、既知の問題や最近の変更との関連性、事業への影響度と優先度を明確にすることが重要です。初期評価の結果に基づいて、対応チームの編成や外部ベンダーへの連絡など、次のステップを決定します。
3-2. 初期診断と切り分け
障害の原因を特定するためには、系統的な診断と切り分けが必要です。ネットワークの物理層から順に確認し、ネットワーク機器のログを分析、基本的な診断コマンド（ping、traceroute、nslookupなど）を実行し、ネットワークトポロジ図を参照しながら問題の範囲を絞り込みます。切り分けの過程では、「何が変わったのか」という視点も重要です。直近のシステム変更、ソフトウェアのアップデート、設定変更などが原因である可能性も検討します。
3-3. 対処の実施と検証
原因が特定できたら、適切な対処を実施します。一時的な回避策（ワークアラウンド）の適用、機器の再起動やリセット、設定の修正や巻き戻し、ハードウェアの交換、ファームウェアやソフトウェアのアップデートなど、問題の性質に応じた対応を取ります。対処実施後は、必ず問題が解決したことを検証します。単に障害アラートが消えただけでなく、実際のサービスやアプリケーションが正常に動作することを確認する必要があります。また、対処によって別の問題が発生していないかも確認します。
3-4. 適切なエスカレーションの判断
社内での対応が困難な場合や、対応が長時間に及ぶ場合は、適切にエスカレーションすることが重要です。定められた時間内に問題が解決しない場合や、問題の範囲や影響が当初の想定より大きい場合、専門的な知識やツールが必要な場合、ベンダーやサービスプロバイダーの支援が必要な場合などが、エスカレーションの判断基準となります。エスカレーション時には、これまでの調査内容や試した対処法、収集したログなどの情報を整理して引き継ぐことで、対応の効率化を図ります。
3-5. 外部サポートリソースの活用
ネットワーク機器ベンダー、ISP、マネージドサービスプロバイダー（MSP）などの外部サポートは、専門的な知識と経験を持っており、複雑な問題の解決に大きく貢献します。外部サポートを効果的に活用するためには、サポート契約の内容と連絡先を事前に整理しておくこと、問題の症状や影響、これまでの対応を簡潔にまとめること、必要なログや設定情報を準備すること、時間的制約や事業への影響を明確に伝えることがポイントです。外部サポートとの良好な関係を構築しておくことで、緊急時のスムーズな対応が可能になります。
4.ネットワーク障害を未然に防ぐための予防策
ネットワーク障害対応も重要ですが、未然に防ぐ予防策も重要です。適切な予防措置を講じることで、障害の発生頻度と影響範囲を大幅に軽減できます。ここでは、コスト効率の良い予防策から、より高度な対策まで段階的に解説します。
4-1. ネットワーク構成の可視化と文書化
ネットワークの構成を正確に把握し、文書化することは、効果的な障害対策の基本です。ネットワークトポロジ図、IPアドレス割り当て表、機器インベントリ、設定ドキュメントなどを最新の状態に保つことで、障害発生時の原因特定と対応が格段に容易になります。
特に重要なのは変更管理プロセスであり、ネットワーク設定の変更履歴を記録し、いつ、誰が、何の目的で変更を行ったかを追跡できるようにすることが重要です。これにより、問題発生時に変更との関連性を素早く確認できます。
4-2. 冗長構成による耐障害性の向上
単一障害点（SPOF: Single Point of Failure）を排除し、システム全体の耐障害性を高めるための冗長構成は、重要なネットワークにおいて不可欠です。コアネットワーク機器（ルーター、スイッチ）の二重化、複数のインターネット接続（マルチホーミング）、電源の冗長化（UPS、発電機）、データセンター間のネットワーク回線の多重化などが主な実装方法です。冗長構成の設計においては、単に機器を増やすだけでなく、障害発生時の切り替えメカニズムが自動的に機能するか、定期的にテストすることが重要です。
4-3. 効果的なネットワーク監視の実践
継続的なネットワーク監視により、問題が大きくなる前に予兆を検知し、対処することが可能になります。現代の統合監視ソリューションは、単純な死活監視だけでなく、パフォーマンス指標やトラフィックパターンの分析、異常検知などの高度な機能を提供します。重要な指標（レイテンシ、パケットロス、帯域使用率など）の継続的モニタリング、ベースラインの確立と閾値の適切な設定、アラートの優先度設定と通知ルートの明確化、トレンド分析による将来的な問題の予測が効果的なネットワーク監視のポイントです。
NTTビズリンクが提供する「 マルモ 」は、監視専用回線不要で導入でき、ネットワークの遅延やリソース使用率を常時監視する機能を備えています。特に、Wi-Fiからクラウドまでのマルチ環境を統合的に監視できる点が特長です。
4-4. 定期的な保守と更新計画
ネットワーク機器も他のITインフラと同様に、定期的な保守と計画的な更新が必要です。ファームウェアやソフトウェアの更新により、既知の脆弱性が修正され、セキュリティリスクが低減されます。また、機器のライフサイクル管理により、サポート終了や部品供給停止による突然の障害リスクを回避できます。定期的なメンテナンスウィンドウの設定、パッチ適用のポリシーと手順の確立、機器のライフサイクル管理と更新計画、機器の健全性チェックとプロアクティブな交換などが、効果的な保守計画に含まれます。計画的な保守と更新により、突発的な障害を減らすとともに、新しい技術の導入によるパフォーマンス向上も期待できます。
5.まとめ：持続可能なネットワーク障害対策の構築に向けて
ネットワーク障害はビジネス停止による直接的な損失だけでなく、顧客からの信頼低下という長期的な影響も懸念されます。効果的な対策には、予防と対応のバランスが重要です。
予防策としては、ネットワーク構成の可視化・文書化、継続的な監視体制の構築、重要機器の冗長化が基本となります。特に統合監視ソリューションの導入は、障害の予兆を早期に発見し、未然に防止するために効果的です。
NTTビズリンクが提供する「マルモ」は、これらの課題解決に最適な統合監視サービスです。社内システムからクラウドまで広がったシステム環境の統合監視が可能で、ネットワーク障害の課題特定から具体的な対処方法の提示までをワンストップで提供します。ネットワーク障害対策について、さらに詳しい情報や具体的なソリューションをお求めの方は、ぜひNTTビズリンクにお問い合わせください。
ネットワーク障害対策は一度で完了するものではなく、継続的な改善が必要なプロセスです。本記事の対策を参考に、自社に最適な障害対策を構築し、安定したビジネス基盤を確立してください。
