臨場感ある3D-Viewとタグ付けされた豊富な情報で 文化施設が多様な人と“豊かにつながる”きっかけを
事例のポイント
物理的な施設を3D-viewにて再現し、オンラインで公開することで「訪れたいが来訪が困難な方」や「まずは知ってみたい方」でも気軽に文化施設との接点をもってもらえる。
施設の装飾の解説や歴史を、デジタルツインで再現した空間内に貼り付けられるので、オンラインはもちろん現地で手元にとってガイドにしてもらうこともできる。パンフレットでは難しい動画での説明を見てもらうこともできる。
特別な技術がなくても、スマホカメラと同様の感覚で撮影できるため、「伝えたい人」が撮影し、「伝えたい内容」でつくることができる。
■施設紹介
東京・代々木上原にある国内最大級のモスク(イスラーム教の礼拝堂)。1938年に東京回教礼拝堂として竣工し、2000年に東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センターとして生まれ変わった。1階には多目的ホールのほかハラールマーケット(毎日10時から19時まで営業)があり、トルコやマレーシア、インドネシアなど多彩な食文化に触れることが可能。2階の礼拝堂に入るときは、靴を脱ぐ必要がある。女性はストールかスカーフで頭髪や身体を覆う(貸し出しあり)。毎日10時から18時まで開館しており、イスラーム教徒でなくても自由に見学できる(金曜日の一般見学は14時から)。毎週土曜・日曜および祝日の14時30分から日本語ガイド付きツアーも実施(予約不要。所要時間45分から60分程度)。
(インタビューにご協力いただいた方)
東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター
広報担当・館内案内
下山 茂 さま
NTTビズリンク株式会社
ビジネスソリューション部 担当課長
稲葉 斉
(モデレーター)
NTTビズリンク株式会社
ビジネスソリューション本部
遠山 美霞
誰でも迎え入れる場所だから、人が集い、空間がにぎわう
・「ジャーミイ」は、集う場所という意味
・出身国、宗教、人種に関係なく多くの人が集いにぎわう空間
遠山:
Beamo™は、スマホで撮る感覚で建物内や施設空間を3D-View化できるソリューションです。建物や施設のファシリティーマネジメントの観点で生み出されたものですが、より多くの人の目に触れる場所での活用で、その可能性はさらに広がると考えています。
例えば、美術館や博物館のような文化施設です。公に開かれた場は誰でもその価値を享受できますが、さまざまな事情で来訪することが難しい方もいれば、ハンディキャップのある方にとってなど、お手洗いへの導線やエレベーターの有無といった、実際に訪れる前にその場のことを知りたい方もいます。
Beamo™は、360度画像を通して、疑似的にその場を体験できます。また、多くの一般の方々に使っていただくことで、Beamo™の「生活の中で役立つ新たな価値」をより広く提供できるのではないかと考えました。
こうした試みにご賛同いただいたのが、東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター様です。いろいろとお力添えをいただいた広報・出版担当の下山様と、導入を担当したBeamo™の企画・開発者 である弊社の稲葉に話を聞いていきたい と思います。
「東京ジャーミイ」がどんな場所なのか改めて教えていただけますか。
下山:
東京ジャーミイの「ジャーミイ」とは、アラビア語で「金曜礼拝ができ、人が多く集まるモスク」を意味しています。モスク(イスラームの礼拝所)というと、お祈りの場所とみなさん思われますが、ここ「東京ジャーミイ」では、礼拝や催事のときだけではなく、人がつめかけ、結婚式で着飾ったカップル、お勉強に来た子供たちとにぎわいが絶えません。
国や民族、世代も超えてあらゆる人が自由に出入りし、この空間でやすらぎのひと時を過ごします。人間だけではないんですよ。実はこの礼拝堂の外壁には「鳥の宮殿(巣箱)」が4つもつくられています。すべて神の創った命だからです。モスクは安息所、シェルターの役割もあるといわれ、イスラームは、人間も動物も分け隔てません。そういう話をすると、皆さん驚かれますが、同時に「優しいんですね」とおっしゃる方が多いです。
ジャーミイは、『心の栄養』を補給する場所
・「神の前ではすべてが平等」というイスラームの精神のもとに人を迎えるジャーミイ
・平等だからコミュニケーションが自然に生まれ、にぎわう
遠山:
実際、私自身もムスリマ(女性のイスラーム教徒)ではありませんが、一般客のひとりとして遊びに来させてもらっています。週末に家族で訪れたときに、その「誰でも迎え入れる」いう「優しさ」をいつも感じています。子どもを含め、国籍も見た目も言葉も違う人たちが 集まって 、ごく自然に遊んだりおしゃべりしたりしていますよね。
下山:
モスクは、平等さの精神が形として最もよく表れる場所で、僕が衝撃を受けたのは、外国から大臣が礼拝に来た時のことです。秘書やSP、運転手さんなどを従えて見学していたのですが、礼拝がはじまると横一列に並んだのです。偉い人が、前ではないんですよ。
これがイスラームにおける神の前における人間の平等、すなわち「水平のベクトル」なんです。人間は全てこの同じベクトル上にいて、神とはひとりひとり「垂直のベクトル」で神と向き合っているのです。
稲葉:
垂直と水平のベクトルという話は非常にわかりやすいですね。東京ジャーミイは垂直のベクトルを中心としながら、同時に人と人とが自然と繋がることができる様な水平のベクトルも提供する「場」であるということだと理解いたしました。そして水平のベクトルにおいては皆が横並びであり、分け隔てなくコミュニケーションを交わすことが出来る。だからにぎわう。
下山:
そのとおりです。僕はよくこんな話をしています。イスラーム教徒の1日5回の礼拝は皆さん方の食事の時間とほぼ一致しています。人間は、栄養やエネルギー源を摂取しなければ体が死んでしまいますよね。体が動けなくなってしまうのです。それでは、人間は、体だけでできているかといえば違いますよね。心にも栄養やエネルギー源を補給しなくてはいけない。そのための営みが礼拝であって、神から「心の糧(栄養)」をもらい、そのあとに礼拝に集った者同士、兄弟として挨拶をかわし、近況を話し合う。ジャーミイはその重要な場所というわけです。
Beamo™は施設管理だけでなく「多様で豊かなつながり」を生み出すソリューション
・「最新のDX技術」で誰でも3D-Viewを簡単につくれるBeamo™
・伝えたい人が撮れるから、伝えたい内容を過不足なく3D-View化できる
遠山:
そのような場所だからこそ、「行きたくても行けない人」や「ちょっとだけ興味がある人」達ともつながれるようなお手伝いがしたいと思いました。なぜならBeamo™は 、最新のデジタルツイン技術をつかったツールであり、3D-Viewの閲覧で空間の疑似体験ができるだけでなく、さまざまな方々とのコミュニケーションを多様な方法で行うことが出来るからです。
稲葉:
Beamo™はもともと、NTTが国内外に数多く保有する通信設備用の建物やデータセンターの不動産の企画・開発やファシリティーマネジメント(施設管理)業務を行う方々向けのDXツールとして企画・開発されました。その際、特に意識したことは、建物や空間に関する専門的な知識を持たない方々であっても、「誰でも簡単に撮影・活用できる」ことです。また社内外のさまざまな役割・背景を持つ方々と数え切れないほどのコミュニケーション・コラボレーションを行う現場であったので、「現場を見ながら話せばすぐに理解し合える」を時間や空間を超えて実現出来る「新しいコミュニケーションツール」うみだしたいとも思っていました。
NTTグループは今まで電報や電話、インターネットなど、その時々の先端技術を駆使しながら、さまざまな方々を「つなぐ」ことに尽力してまいりました。Beamo™もそのDNAを受け継ぎ、最新の技術で、多くの方々を「つなぐ」ことを目指しております。そして、我々が東京ジャーミイのひととひととをつなぐ水平のベクトルのお話に共感した理由でもあります。
下山:
なるほどね。正直、最初に3D-Viewといわれてもあまりよくわかっていなかった。技術的なことはまだわかってません(笑)。だけど、今、こうしてできたものを見て、いつも見ている礼拝堂内の装飾の中に、アラビア語書道によるコーランの一節などの説明が添付されているのをみて、改めてそういうことかと思いました。館内ツアーでご案内するときもみなさんはチューリップやカーネーションといった花の話や、イスラームアートの話を熱心に聞いてくれますし、パンフレットでも関心を持たれる箇所なんです。これらをまだ来たことがない方にも届けられるというのは良いですね。
稲葉:
おっしゃる通りBeamo™は臨場感のある360度画像で空間を再現しながら、その3D-Viewの空間内に、空間タグとしてテキスト、ファイル、動画データなどをさまざまな形式で添付、HTMLやURLを差し込むことで他サービスとノーコードで連携することができるようになっております。これらの機能によって多くの方々に東京ジャーミイをより深く理解していただくことにお役に立てると思ってます。また、誰でも簡単に撮れるので、伝えたい方が伝えたい内容をそのまま3D-View化し、タグ付けできるのもおすすめのポイント です。従来のように、企画する人、撮る人、作る人がそれぞれ別々ですと、専門的な指示も大変ですし、場合によってはそれがコストに反映されてしまいます。なにより本来の趣旨がうまく伝わらないという可能性があります。
下山:
こうしていつも見ている風景を3D-View化することによって、たとえば館内をどのような順路で見ていけばいいのか、ハラールマーケットはどこにあるのか、ビューポイントはどこかを教えることができます。車椅子の方が来られると、車寄せからエレベーターを使って礼拝堂までの導線など、「毎日見ている場所だけど、改めてどうなっていたかな」と気がついたんです。3D-Viewを事前に見てもらえば不安も解消できるでしょうし、「受付けではぜひお声かけください」などと説明を発信することもできますね。
Beamo™による3D-Viewを新しいチャレンジのきっかけにしたい
・3D-Viewを通してより多くの人にイスラーム文化やジャーミイの優しさを届けたい
・新しい世代が新しいことにチャレンジしていく場づくりのきっかけにしたい
遠山:
私も、東京ジャーミイの美しさに魅了され、いつも元気をもらっている人間のひとりです。イスラーム文化の外で育ったからこそ、まだ知らない人たちに私が感じた感動を伝えたいですし、ここの美しさ、優しさを知っている者として、イスラームの方もそうでない方でも 少しでも興味がある方や、来たいけどさまざまな事情によって来ることが出来ない 方のお力になれたらなと思っています。
下山:
イスラームについて、ニュースの影響で怖い宗教とか、遠い宗教で自分には関係がない、といったネガティブなイメージが少なからずあるのは残念ながら事実でしょう。でも、東京ジャーミイのツアーで礼拝堂に一歩入ると、みなさん息を呑むんですね。そしてその美しさに人と人とが民族や文化の違いを超えてつながる素晴らしさを目の当たりにし、今までご自身が持たれていたイスラームのイメージが大きく変わっていくと思います。このBeamo™による3D-View化の取り組みによって、そういった経験をより多くの方にも届けたい、その実現のためには新しい取り組みにも果敢にチャレンジしていきたいという我々の気持ちも伝わるのではないかと期待しております。
稲葉:
それは我々の、DXでイノベーションを起こそうとしている者たちが一番お役に立たないといけないところですね(笑)。新しいことにチャレンジしていく場をサポートできることが本望ですし、NTTの元で提供するサービスとしての使命だと思っています。Beamo™は画像やデータがフロアや時間別で簡単に管理出来るのも大きな特徴ですので、例えば季節や時間ごとに変化する景観を発信してみるのもいいのではないでしょうか。なかなか足を運ぶのが難しい早朝や日没の礼拝を、3D-Viewを通じて追体験することも可能です。
また、これは外向けではなく運営側の活用法ですが、定期的に撮影をして施設内を客観的視点で見直すことで補修すべき部分が早期発見できたり、メンテナンス計画を効率的に立てたりするのにも役立つと思います。
遠山:
東京ジャーミイは、若者向けの活動として、東京ジャーミイユース (※)にも力を入れていますよね。イスラームの方だけでなく志あり多様なバックグラウンドをもつ若者たちが集まってさまざまな活動を展開しています。 ぜひ彼らのような若い世代にも、Beamo™を使った3D-Viewの制作を体験してもらうなど、果敢に新たなチャレンジをしてもらえたらと思います。東京ジャーミイのそういう場づくりにBeamo™が貢献できたら光栄です。
※東京ジャーミイユース:東京ジャーミイのお祭りやバザーを企画・運営する若者たちの集まり
下山:
いろいろな人たちが行き交い、つながる場所であり続けるために、Beamo™を役立てていきたいと思います。ぜひ今後もサポートをよろしくお願いします 。